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【レポート】ZERO CARBONと諏訪のミライについて考える(ゼロカーボンミーティングin諏訪)

エリア : 茅野市

令和5年5月29日、茅野市民館において「ゼロカーボンミーティングin諏訪」が開催されました。「一緒に考えてみませんか ZERO CARBON と諏訪のミライ」と題して、第1部では基調講演を、第2部ではパネルディスカッションが行なわれました。

 

第1部の基調講演では、東京大学大学院の前真之准教授から、「地域みんなが豊かになる本当の脱炭素のやり方を考えよう~住まいと地域を暖める断熱・省エネと再エネの上手な活かし方~」と題してお話をいただきました。

現状、課題、目指すべき姿について
・長野県は冬寒く夏暑い。太陽エネルギーには恵まれている。
・日本の家は断熱、気密が低い。ストーブの近くだけ暖かく、周りは寒いという快適性の低い住宅が多い。
・近年燃料価格や電気代が急騰。電気代の高止まりを覚悟して、電気の消費量を減らす本気の対策が必要な時代になる。そのためには、温度と電気代のバランスをよくする省エネ住宅が必要。
・化石燃料に頼ると日本も地域もどんどん貧しくなる。大企業、商社が儲け、燃料代が国外に流出する。
・脱炭素は究極的には社会のシステム、お金の流れを変えること。地球と人に悪いことは高くつく仕組みに。地域のエネルギーを循環させればみんなが豊かになる。
・真の脱炭素には住宅・建築の改善が不可欠。高性能な家をみんなが知ってほしがる仕組みと、高性能な家に価値がつくお金が回る仕組みづくりが必要。

前准教授の講演スライド

 

建築物の断熱、気密等について
・断熱気密がないと家じゅうを温めることはできない。その結果、ヒートショックの原因となることも。
・鳥取県は断熱と気密の両方で日本最高レベルの基準を策定。さらにそれを徹底的に周知。知事のトップダウンで予算が青天井。熱血現場主義スーパー県職員が解決に向けて動いている。鳥取県は日本をリードしている。
・難しいが重要なのはすべての人に届けること。脱炭素を本当にやるなら断熱等級6以上
・断熱をしっかりすると、窓からの日射熱も活用できる。長野は特に有効
・家を直さなくてもできる節電として、電気・ガス・水道の検針票の確認、長時間使う冷蔵庫や照明を省エネ型に、給湯器が故障したら高効率型に、節湯は節水にも効果的、カーテンの活用等
・リノベーション、断熱強化はまず内窓から。騒音が聞こえにくくなるメリットも。窓が増えて開け閉めが面倒という場合は、カバー工法もある。
・窓と一緒にぜひやってほしいのが床の断熱、気密。

 

太陽光発電について
・日本では太陽光発電に対してネガティブな意見が多いが、家庭の電気代を安くするのに太陽光より強力な手段はない。
・FITが安くなってペイしないという意見もあるが、現在でも10年少しで太陽光発電はペイする。
・東京都は新築住宅への太陽光発電設備の設置義務化をして大反対があった。設置義務化という言葉がきつかった。義務化は「もれなく」実施するためには重要。
・野立てソーラーと屋根ソーラーは別物と考えなければならない。

 

 

第2部のパネルディスカッションでは、第1部で講演をいただいた前真之准教授がファシリテーターを務め、諏訪地域でゼロカーボンに取り組む企業や専門家に加え、県内の大学生がパネリストとして登壇し、それぞれの登壇者が取り組んでいることや課題などを発言いただきました。

〈パネリスト〉
スワテック建設株式会社取締役会長 岩波寿亮 さん
野村ユニソン株式会社経営企画部長 金井亮一 さん
長野県建築士会諏訪支部 支部長 宮坂佐知子 さん
信州大学大学院総合理工学研究科工学専攻建築学分野 修士1年 齋藤士琉 さん、大星直也 さん

〈ファシリテーター〉
前准教授

 

―各パネリストの取組について

岩波さん(スワテック建設㈱)
諏訪地域のゼロカーボンシティ化に向けて取り組んでいる。
野立てソーラーは難しいので、駐車場や事業所の屋根などの活用、新電力の立ち上げなども検討。

金井さん(野村ユニソン㈱)
水道の凍結防止ヒーターの電気代を9割削減するものを30年前に売り出し、今でも売れている。30年経ってゼロカーボンにも貢献している。
エコハウスのゼロカーボンと、企業のゼロカーボンはかなり違う。野村ユニソンは約1800世帯分の電力を使っている。1800世帯分がゼロになるくらいの努力が必要。地域や国の力も借りて、いろいろなことを考えてやらないと達成できない。

宮坂さん(長野県建築士会諏訪支部)
ゼロカーボンが話題になるようになり、省エネに関する相談が増えている。市民の方からの相談を受けて建物の資産価値、補助金の活用も含めて取り組んでいる。

齋藤さん(信州大学大学院)
学校建築において、植樹などのグリーンインフラで最適な冷却効果が得られるか、シミュレーションを行っている。今後の改善策としては、身近なところから意識ごと変えていくことが重要だと考えている。

大星さん(信州大学大学院)
建築のエネルギーシミュレーションのための気象データは1995年版(過去のもの)が使われているが、2020年、将来予測のデータを活用できればと考え、研究している。

 

―海外に比べ、日本では地球環境問題が盛り上がっていない。学生の間ではどの程度意識があるか。

齋藤さん(信州大学大学院)
同年代と話していると、ゼロエネルギーについて知識がある人はいるが、改善のための断熱、気密となると建築関係の話題だとなってあまり理解されない。意識を改善していく必要がある。

大星さん(信州大学大学院)
IPCCの報告書で温暖化していることはわかっているが、周りは意識が低く、関心もない。

 

―関心持たずに楽観的に暮らせるならそれはそれでいいことだが、地球環境問題から地域経済、身の回りのことまで、将来的なことをどうとらえているか。

齋藤さん(信州大学大学院)
深刻なことだと思っているが、学生という立場と国や自治体という立場にギャップがあり、実行するのが難しい。活動しやすい雰囲気があるといい。

大星さん(信州大学大学院)
温暖化も過疎化も悲観的にとらえている。難しいことではあるが、温暖化によって寒冷地は住みやすくなるので、それを活用した移住による過疎化の解消なども考えられるのでは。

岩波さん(スワテック建設㈱)
若い方には危機感はあまりないと感じる。家を建てるときに、イニシャルコストが足りなくなると、まず断熱や太陽光発電から削除される。年齢が上の世代も危機感はあるが、ビジネスにおける取組では、発注者から言われたから取り組んでいる業者もいる。

金井さん(野村ユニソン㈱)
環境への取組で企業がランク付けされている。義務化、規制というのは悪いイメージがあるが、決めていかないと進んでいかないのも確か。

宮坂さん(長野県建築士会諏訪支部)
寒い高地の別荘でも、今ではエアコンをつけることがほとんどになった。こうしたことを、世代を超えて話す機会が必要。その場を作るのも大人の役目

 

―2015年のパリ協定では、日本は脱炭素に否定的な国だという扱いをされた。2050ゼロカーボンをリアルに考える若手の立場から何とかできそうだと思うか。

齋藤さん(信州大学大学院)
今のままだと悲観的にとらえてしまう。今の状況からさらに温度が上がって、その中でゼロカーボンを目指すということや、2050年はかなり遠い話、現実的でないように感じる。

大星さん(信州大学大学院)
今の日本では暖房費が冷房費より多いが、2050年の気象データを作成してシミュレーションをすると、冷房費が上回ってくる。その中でゼロカーボンというのは、今のままでは難しいのではないか。

 

―岩波さん、金井さんからの話を伺っていると、脱炭素は中央の大企業が先行してやっていく、それに振り回される地域の企業が消耗しているイメージがあるが、どう考えるか。

岩波さん(スワテック建設㈱)
本気でやらないと会社がなくなってしまうということで、悩みながら一生懸命取り組んでいる。

金井さん(野村ユニソン㈱)
大手企業と比べると、下請け企業の排出量は桁違いに少ないが、それでも頑張らなければならないし、貢献度が少ない企業は努力を求められる。
地方自治体としても姿勢を見せ、例えば、休みの日に学校の太陽光発電施設で余った電気を使ってグリーン水素を作るという取組ができたら面白いのではないか。将来の世代に向けたメッセージにもなる。

宮坂さん(長野県建築士会諏訪支部)
学校では断熱改修がほとんどされずにエアコンをつけるなど、根源を見直さず目の前の対策だけを打ち出すようなものが多い。また、長期計画を立てるときに、行政の単年度制が立ちはだかることが多く、仕事する中でも不条理。多年度にまたがっても同じ事業ならやっていく、という姿勢が必要だと思う。

前さん(東京大学大学院)
非常に大事な視点。これからは国ではなく地方自治体が主役。従って、どうしたらその地域に住んでもらえるか、事業を安心して長期でやってもらえるか、というビジョンを提示する必要がある。
メガソーラーや風力の反対運動が大きいのは、地元に恩恵がないということが理由の一つ。地域みんなが豊かになる、ドイツのシュタットベルケのようなものが再エネを増やす。がんばっている企業が自動的に有利な条件になって大企業に負けないような仕組みができればよい。

岩波さん(スワテック建設㈱)
FITではなく、みんなで買ってみんなで分ける、というやり方ならできると思う。自治体も出資して国の補助金も活用し、自分たちの電気を自分たちで賄う地域新電力ができたらよい。

金井さん(野村ユニソン㈱)
地域には可能性があると思っている。最終的にはオフグリッドではないか、と考えているが、実際難しいことも多い。電力会社とはしっかり話し合いをすることで方向性が出るのではないか。

前さん(東京大学大学院)
冬でも太陽エネルギーが豊富なら住宅単位でエネルギー自立は可能だと思うが、グリッドから切るまではいかなくてもいいと思う。
地域が発展するには地域の雇用が必要。地域全体の繁栄という視点がないまま、メガソーラーや風力反対と言っていると、CO2排出が多い地域ということで工場が立地せず、地域全体が貧しくなってしまう。

 

―最後に、登壇者の皆様から一言。

岩波さん(スワテック建設㈱)
これからの諏訪をよくしたいという気持ちを皆さんと持ち続けたい。

金井さん(野村ユニソン㈱)
この分野はおもしろい。いろいろな工夫ができると思う。こうしたことをみんなでやっていけばゼロカーボンにつながる。必要なのは知恵、アイディア。

宮坂さん(長野県建築士会諏訪支部)
住民、企業、行政が手を取り合って一つの目標に向かっていくことが必要。ゼロカーボンを目指した住宅づくりや、住民の方からの相談にも力を入れたい。

齋藤さん(信州大学大学院)
取組を身近にしてみんなで頑張っていくには、地域一体が重要。

大星さん(信州大学大学院)
地域密着で自分たちの手でやることによって成果を見える化すれば、ゼロカーボンを達成できるのではないか。

 

最後に、東京大学大学院の前准教授から
「先んじてやることが重要。日本は先をとるというのができておらず、海外にルールを決められて不利になっている。長野県は日本の中でも先んじているほうだと思う。ぜひ地域全体で豊かになる脱炭素を実現してほしい。」
と激励をいただきました。

 

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