「気候変動対策」と聞くと、どんな印象を持ちますか?こまめに電気を消す、プラスチック容器の使用を減らす、エアコンの設定温度を省エネにする……。「環境のためにやらないといけない」と頭ではわかっていても、どこか「我慢」をしないといけないというネガティブな印象もあるのではないでしょうか。
しかし、「楽しく手を動かすことが地球温暖化対策につながる」と、参加型の「断熱DIY(※)ワークショップ」に取り組む高校生の活動が、そのイメージを変えてくれます。
※DIY:Do It Yourselfの略で、自分たちの手で何かを作ったり補修したりすること
室内の保温効果を高めて冷暖房の使用を減らすことで、二酸化炭素の排出削減につながる「断熱」。長野県上田高校3年生の桑田彩芭(くわたいろは)さんは、1年生の頃から学校を巻き込み、校舎内の断熱DIYを先導してきました。
ひとりの高校生が、どうやって学校を巻き込んでいったのか。そして、どうして地球温暖化に興味を持つようになったのか。桑田さんたちが断熱DIYを行なった上田高校の教室で、お話を聞いてきました。
【プロフィール】
桑田彩芭(くわた・いろは)さん:
上田高校3年生。2021年開催の『北陸新幹線サミット』をきっかけに、断熱ワークショップに出会う。同年10月に友人2人と共に「上田EFSプロジェクト」を結成し、12月に断熱ワークショップを初開催。今年で活動3年目。
一人一人の意識の変化につなげるために、参加型ワークショップを企画
ーー桑田さんが上田高校で取り組んでいる、「断熱DIYワークショップ」について教えてください。
桑田さん:「断熱DIYワークショップ」は、教室の保温効果を高めることでストーブの使用を減らし、二酸化炭素の削減につなげる取り組みです。私が高校1年生のときに、友人2人を誘って「上田EFSプロジェクト」という有志の団体を立ち上げ、その中で断熱ワークショップの企画を始めました。活動をしていくうちにメンバーが増え、立ち上げから3年目の今は各学年合わせて16人で活動しています。
ワークショップは、毎回参加者を募って行っていて、学内外からだいたい10〜20人くらいの高校生が集まります。DIYで工事を行うことで、参加する人に、環境問題について興味を持ってもらうきっかけになればと考えています。これまで実際に2つの教室の断熱工事を行いました。
まず一つ目の教室は、放課後や長期休みの際に生徒が自習するための学習室です。全学年の生徒が使う教室がいいと考えて、この教室を選びました。
ここでは、窓側の壁に断熱をしました。もともとは、コンクリートの壁にアルミサッシの窓がはまっていて、冷えた空気が室内にも伝わりやすかったんです。壁には、板状の断熱材を木枠の間に詰めて、木の板で蓋をしてあります。さらに、断熱効果の高いポリカーボネート製のプラスチックで作った窓を設置しています。
二つ目の教室は、校舎の4階にある一年六組の教室です。校舎の中でも、西日が入りづらい教室だったのでここを選びました。こちらの教室は、天井板を3列ほど取り外し、天井裏にグラスウールの断熱材をどんどん敷き詰めていきました。どちらの教室も、生徒の力だけではできないので工務店の方をお招きし、一緒に協力してもらいながらDIYを行いました。
ーー実際に、断熱の前と後で変化は見られましたか?
はい。断熱した教室と、していない教室に温度計を設置し、冬の間に効果測定を行いました。昨年最低気温を記録した日の、断熱をした教室内の温度は10度、断熱していない教室の温度は5度と、5度の差がありました。
ーー真冬の5度の差は、かなり大きいですね……!
数値としても効果が見られましたし、実際に、教室を使用した生徒からも「教室が暖かくなった」という声があがりました。現在、断熱した教室は二つだけですが、今後も「断熱DIYワークショップ」を続けていきたいと考えています。
ーープロジェクトは、生徒主体で動いているのですよね。学校側はどれくらい関与しているのでしょうか。
学校側からの指導によるものではなく、私たちプロジェクトメンバーが自発的に活動しています。どの教室で断熱を行うかは生徒たちだけでは決定できないので、私たちが企画書を作り、教頭先生に提出して、職員会議にかけてもらい許可をもらっています。資金繰りの面も、断熱にかかる費用を県の教育委員会に申請していて、その申請手続き書類の作成を、事務室の先生方と一緒に行なっています。
さらに、学校の先生や生徒だけではなく、地域のNPOや工務店、専門家のサポートがあり、ここまで継続して活動をすることができました。私自身、学校外部の方と接する場面が多かったことで人間的に成長することができました。
自然の中で遊ぶのが当たり前だった幼少期。地球温暖化が進むことへの危機感を抱いていた
ーーこのプロジェクトが発足した経緯についてもお聞きしたいです。そもそも、桑田さんご自身が地球温暖化の問題に関心を持つようになったのはいつからですか?
小学1年生の頃から、地球温暖化を止めないといけないという意識がありました。私は「菅平」という高原地帯で育ったので、子どもの頃から毎日のように山の中で遊んでいて、自然がすごく好きだったんです。そこから、テレビや本で地球温暖化について知って、このままでは大好きな自然がなくなってしまうんだと怖くなりました。
でも、小中学生の頃は、周りに環境問題について話せる仲間もいませんでしたし、何かしなくちゃいけないとはわかるけれど、何をしたらいいのかわからずもどかしい思いをしていました。自分が大きくなったら、なにか大きいアクションをしてみたいという漠然とした思いがありました。
ーー「大きいアクション」がしたいと考えていたのはどうしてですか?
地球温暖化に興味を持ってからは、節電をしたり、公共交通機関を使って移動したりと、子供ながらに小さなアクションを起こしていました。でも、私ひとりが小さなアクションを起こすだけでは、地球規模で考えるとほんの少しの効果にしかつながらない。
世の中には、まだまだ地球温暖化に関心がない人の方が多いと思うので、大きなアクションを起こして、関心のない層の人たちにも関心を持ってもらい、みんなで一緒にアクションを起こしていった方が、温暖化の進行を止める上で効果が大きいと考えたんです。
ーー個人単位の取り組みではなく、人を巻き込んでいきたいという思いがあったのですね。実際に、その思いが形になっていくにはどういった流れがあったのでしょうか。
高校1年生の6月に、「北陸新幹線サミット」というイベントに参加したことが一番大きなきっかけです。「北陸新幹線サミット」は、石川県立金沢泉丘高等学校や上田高校など、新幹線沿線にある高校の生徒を中心とした課題研究発表会です。私は環境班に入り、環境問題についての意見交換を行いました。
そこで、長野県の環境政策課の方から「長野県学生環境コミュニティ」のチラシをもらい、参加することにしたんです。「長野県学生環境コミュニティ」は、環境問題に関心がある県内各地の中・高・大学生が所属していて、Slack上で勉強会を行なったり、意見交流を行なったりするコミュニティです。そこで、白馬高校の断熱ワークショップに関わっていた地域の方から上田高校でも断熱ワークショップをやってみないかというお声がけをいただきました。とても興味が湧いて、やってみたいと思いました。
ーー同じ興味関心を持つコミュニティを見つけたことから、活動につながっていったのですね。
学内で実践できた理由として、周りの環境も大きかったと思います。上田高校には「GS(グローバル・スタディーズ)」という、教科を横断した視点からSDGsを探究するカリキュラムがあり、私以外にも自発的な取り組みをする生徒がたくさんいました。実際にプロジェクトを動かすにあたり、他の生徒との温度差がなく、活動がしやすい環境だったのも大きいですね。「何かやってみたい!」という友人たちが、私の呼びかけに応じて活動に参加してくれて、徐々に仲間が増えていきました。
温暖化対策へのイメージが、ワークショップを通じてポジティブに変わった
ーーアクションを起こしやすい校風だったのですね。とはいえ、学校の勉強と並行して、かつ人も動かしながら活動を続けていくのは大変ではなかったですか? 桑田さんが、3年間にわたりプロジェクトを続けてこられた理由はなんだったのでしょうか。
そうですね……、大変でした(笑)! ワークショップの時期がテスト前の期間と被ることもありましたし、3年生になってからは大学受験の準備もありますし。でも、実際に一回目の「断熱DIYワークショップ」を行なった時、たしかな手応えがあったんです。それが活動を続けるモチベーションになりました。
ーー手応えというのは?
はじめは「環境問題には興味はないけれど、なにかやってみたい」と来てくれた生徒が、ワークショップに参加したことで、環境問題に関心を持ってくれるようになったんです。
ワークショップには、他校から参加してくれた生徒もいましたし、活動が続き、広がっていけばいくほど、「地道に環境問題にアクションを起こそう」と考える人を増やせる。そう考えると、大変な時も活動を続けてこれました。それに、私自身も、ワークショップを経て温暖化対策への意識に変化が生まれたんです。
ーーどんな変化があったのですか?
私は、小さい頃から「地球温暖化を止めないといけない」という意識があったものの、温暖化対策にはどうしてもネガティブなイメージがあったんです。例えば、プラスチック容器を使うのをやめなきゃいけない、車を使うのを控えないといけないなど、なにかしらの我慢をしないといけないと思っていました。
でも、断熱をすることが二酸化炭素削減になると知って、実際に自分たちの手で断熱をしてみたら、単純に「手を動かす」ことが楽しくて。初めて触るふわふわの断熱材を、みんなで協力して抱えて教室に運ぶだけでも楽しかったですし、足場を組んで天井板を外すのもなかなかできることではないので新鮮でした。
ーーみんなで楽しく温暖化対策に取り組める方法があると体感できたのですね。
いくら、「今世界中で気候変動が起こっていて、このままだと地球が危ない。何かしないといけない」と言われても、どこか他人事になってしまって、実際のアクションにつながりづらいと思うんです。でも、このプロジェクトでは、みんなで楽しく手を動かして、さらに教室が暖かくなるというプラスの効果が生まれる。そんなポジティブな経験が、環境問題に意識を向けるきっかけになるんです。
「断熱DIYプロジェクト」については、DIYでちょっとずつ行うのではなく、行政が主導して全国の学校の断熱工事を行なった方が早く効果が出るという声もあります。でも、私はそれはちょっともったいないと思うんです。たしかに、二酸化炭素の排出量を減らすという意味では、行政が主導した方が早いかもしれません。でも、それでは一人ひとりの意識が変わらない。DIYで断熱を進めることは時間がかかりますが、みんなで楽しく活動を行うことで意識を変えていければ、長い目で見たらよりよい影響が出るはずです。
興味に対して、一歩踏み出す。
仲間が増えて、大きなアクションにつながっていく。
ーー「自分ごと」としてひとりひとりの意識を変えていくことで、長期的な影響をもたらすと。だからこそ、桑田さんも一回のワークショップだけで終わらせずに、後輩たちへ活動を引き継いできたんですね。
はい。私が団体を立ち上げ、活動を始めてからの二年間は、「断熱DIYワークショップ」を行うことで精一杯でしたが、今後は環境問題に関する勉強会や読書会など学びの機会も増やしていきたいと考えています。私を含め、立ち上げのメンバーは今年で卒業しますが、後輩たちが入ってきてくれたのでこれからも活動が続いていってほしいです。
受験が落ち着いたら、「断熱DIYワークショップ」のマニュアルを作って共有したいと思っているんです。上田高校の後輩たちが、私がいなくても自走できるようにすることはもちろん、他校の学生が取り組みに興味を持ってくれたとき、誰でも自由に見られるマニュアルがあれば活動が広がりやすいと思うので。
ーー桑田さんは、高校卒業後はどういったかたちで環境問題に取り組んでいきたいですか?
大学では、環境系の分野についてもっと学びを深めたいです。それから、ソーシャルビジネスの立ち上げにも興味があります。「断熱DIYプロジェクト」は、効果が大きい反面、断熱材の購入にたくさんのお金がかかります。ワークショップを行いたいという高校が増えていくのはいいことですが、県の教育委員会から補助金をもらってDIYを行う今の状況では、いずれ資金面で限界がきてしまう。それでは活動が続かないので、持続可能な活動にするためにはどこかでお金を生み出す仕組みをつくってみたいです。
ーー今度は、「断熱DIYプロジェクト」の活動が続いていくための枠組みそのものをつくろうとしているんですね。最後に、桑田さんと同世代の人たちに伝えたいことはありますか?
私たちは、世間から「Z世代」と言われる世代です。私たちの上の世代よりは、環境問題について見たり聞いたりする機会が多く、どこか意識している部分はきっとあると思います。でも、そこから先にどんなアクションを取るかまではまだ結びついていない現状がある。
実際に、上田高校でも地球温暖化に対するアンケートを取ってみたことがあるのですが、「地球温暖化に興味がある」と答えてくれた人の中でも、「なにかアクションをしたいとは思わない」、「何かしてみたいけれど、何をしたらいいかわからない」という声が多く挙がりました。
地球温暖化対策に限らず、10代のうちはまだ「興味がある」の先に一歩踏み出すことに、どうしてもハードルがあると思うんです。周りを気にして、「何かする」こと自体がはばかられるというか。
私自身も、子どもの頃から「地球温暖化を止めたい」とは思っていたものの、「でも何ができるんだろう」と足踏みしていた時期がありました。だけど、私は高校1年生の時に思い切って「北陸新幹線サミット」に参加してみたことで、この後の高校生活がガラッと変わった。
もし、あなたが今、何か本当に興味がある分野や出来事があるなら、まずは一度自分も参加してみることが大事だと思います。高校生でもできることはあるし、知識として知っていることと、行動で得られることは違うから、自分のしてみたいことがあるならまずやってみてほしいです。そうしたら、同じ熱量で話ができる仲間が増えて、もっと大きなアクションにつながるかもしれません。
長野県上田高等学校
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桑田彩芭(くわた・いろは)さん:上田高校3年生。2021年開催の『北陸新幹線サミット』をきっかけに、断熱ワークショップに出会う。同年10月に友人2人と共に「上田EFSプロジェクト」を結成し、12月に断熱ワークショップを初開催。今年で活動3年目。
撮影:丸田 平
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